しのぶもぢずり

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「ごめん」  たまらずこぼすと、彼女は「どうして謝るの?」とでもいうようにきょとんとした顔をする。何も返せずにいたら、自分の両手を見つめて、何か悟ったように苦笑した。 「私がこうなったのは自分がドジだからで、おうちゃんのせいじゃ――」 「そんなことない」  あくまで明るい彼女の声を静かに遮った僕は、強く首を横に振った。 「僕が、殺したんだ」 *  僕らの日常は、空を流れる雲のように穏やかだった。 「あー! 雪にい、私のおまんじゅう一個食べたでしょ!?」 「早く席ついたほうが一個もらうって言っただろ。聞いてなかったのか? もたもたしてんのが悪いんだよ」  兄と姉の間で激しい争いが勃発するとき以外は。いや、それだってきっと、幸せな日々の一部だったのだ。
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