しのぶもぢずり

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 小学校の入学式で風に揺れていた満開の桜はくすんで見えたし、初めての夏休みはちっとも楽しくなかった。  ごみ箱に丸めて捨てるかのように日々を浪費していたあるとき、彼女の一周忌を翌日に控えた夕方、小さな奇跡が起きる。  トイレを済ませて部屋に戻る途中、廊下から何気なく庭のほうを見やった僕は、目を疑った。  彼女がいる。  枝は折れてしまったけれど、祖母がきちんと手入れしてくれたおかげで例年通り花を咲かせ、盛りを過ぎて見事に紅葉したハナミズキのそばで、彼女が微笑んでいる。 「いる……!」  縁側まで駆けていって、ほぼ無意識で叫ぶ。 「あ?」  制服を着崩して畳に座り込んでいた兄が、威圧的な声を返した。 「姉ちゃんがいるよ、兄さん」  興奮を隠せないまま軽く息を弾ませて言うと、兄は怪訝そうに眉根を寄せる。  
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