しのぶもぢずり

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 妹の死を境に、彼はすっかりやさぐれてしまった。  昔からやんちゃな性格ではあったが、中学に入ってからというもの、言葉遣いの悪さに拍車がかかり、強面(こわもて)(たち)が悪そうな連中とつるんでいるようだった。  週末、夜遅くに帰ってきた日は、酒やたばこのにおいを漂わせてくることもある。  けれど、悲しみのあまり荒んでしまった兄も、こうして庭を眺めるときだけは、とてもきれいで切なげな瞳をしていた。 「ほら、あそこに」  いつ殴られてもおかしくない。でも喜んでほしい。兄さんがこんなふうになってしまったのは、僕のせいだから。  恐怖、ほんの少しの期待、そして、忘れてはならない罪悪感。  様々な感情を胸に抱えながら、ハナミズキを指さすが、 「……なに言ってんの? お前」  嘲笑するような乾いた一言を返されただけだった。  どうして分かってくれないのだろう。  つい助けを求めたくなって彼女に目をやると、そっと唇の前に人差し指を立てた後、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
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