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「そんな正樹くんだって、失敗して当たり前の日に告白すれば振られてもダメージは少ないさ。上手くいけばクリスマスは彼女持ちだしな」
何を思ったか鬱陶しく俺のまわりを付きまとう信也はそんなことを言った。
「失敗して当たり前の日?」
信也の十三回も告白する勇気は本人には言わないが尊敬に値すると俺は思っている。告白するきっかけが欲しい俺は信也の言う提案を受け入れることにした。
信也の提案とは十三日に告白すること。この日なら断れてもダメージが少ないと信也に吹き込まれ、俺は十三日の朝、鍋島さんの下足箱に手紙を入れた。
放課後に校舎裏でお話がありますと。十七年生きてきて彼女がいたことなどない。俺にとっては一世一代の決意だった。
放課後、足早に校舎裏に赴き、ちらりちらりと小雪の舞う中、俺は直立不動で待っていた。その様子を陰から伺う信也の姿が鬱陶しいが。
待つ時間がこれほど長く感じるのは生まれてはじめてかも知れない。病院の待ち時間より、遅刻した友人を待つ時間より、親父に打たれた夜よりはるかに長い。
ふぅと息を吐くと、それは白く現れて一瞬で消えていく。来ないかも知れないと諦めかけたとき、鍋島さんはその姿を現した。
マフラーに手袋にコート。見た目が小動物の鍋島さんは、冬の姿がよく似合う。
「お話って何ですか?」
鍋島さんの手には俺が下足箱に入れた手紙。
俺は一つ深呼吸。吐く息はやはり白い。
「鍋島さんが好きです!お付き合いしてください!」
一気に叫んだ。鍋島さんの目は丸くなり、頬が赤くなる。
「私でいいの?」
「あなたがいいんです!」
マフラーに隠れて口許は分からないが、鍋島さんの眉が下がった気がした。
「よろしくお願いします。オーケーです」
鍋島さんは俺の手を握る。
その後、俺が余計なことを言わなければ良かったのだろう。そのせいでその後の力関係がはっきりしてしまったのだから……。
「良かった!断られてもいいように十三日の金曜日に告白したのに、断られなくて良かった~」
鍋島さんの目がキリッとあがったのを俺は見逃してしまった。
「私に断られたら十三日の金曜日のせいにするつもりだったの?」
「うん。それならダメージ少ないから」
ぱあぁぁぁぁぁぁんと空高く音が鳴った。
鍋島さんに俺の頬が打たれた音。
「正樹くんは腑抜けなんですね」
え?と思った俺は更に余計なことを言ってしまう。
「告白……失敗?」
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