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鍋島さんは、口許も隠していたマフラーを左手で下げて、右手で俺の襟首を掴む。
「失敗じゃないですよ。私、あなたのようなヘタレ大好きなの」
鍋島さんは、ぐいと俺の襟首を自らに手繰り寄せて俺の唇にキスを落とし、俺を離した。
「あなたのはじめては全て私がもらうからね。覚悟してね」
そう笑った鍋島さんは小悪魔を通り越して悪魔に見えた。
「じゃ帰りましょう」
鍋島さんは、そう言って俺の手を握った。俺は陰に隠れている信也のほうを見ると信也の影はなかった。逃げたのだろう。
告白した瞬間からマウントを取られた俺は、この後ずっと鍋島さんに頭があがらなかった。散々に振り回され、はじめてを奪われまくるお付き合いはこのときから始まった。
それは十二月十三日の金曜日。そんな予感があってもおかしくない日だった。
了
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