アニメ好きが言えなかった言葉

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 大学生の俺も、とうとう就職活動が始まる。  初めての企業訪問の準備だ。新調したリクルートスーツスタイルをお袋に見せた。 「スーツさえ着てれば、あとは、ありのままの自分を見てもらえば良いわ」  いくつもの企業面接を受けた。趣味がアニメとマンガだと言うと大抵の面接官が失笑した。しかも、ご縁がなかったと電話が続く。今後の参考のため、丁重にご縁がなかった理由を尋ねた。 「趣味がアニメとマンガだったのが『オタク』っぽいと、上が判断しまして」 「御社の面接を受けれただけでも、光栄です」  どうも、趣味がアニメとマンガだと気に入らないらしい。イライラして、受話器を切り、夕飯の支度をしてるお袋にぶっきら棒に言う。 「アニメとマンガが趣味じゃダメだって。他に何か手軽にできそうな趣味ない?」 「小学生の頃、お母さんが飼っていたインコの世話手伝ってたね」  思い出した。お袋に尋ねたが、鳥かごは捨てたと言うので、俺は近所のペットショップに行き、インコと一番安い飼育道具一式を買い、店員さんに飼い方を詳しく聞いて、一生懸命世話をした。  インコの世話をしながら就職活動と息抜きにアニメとマンガを楽しむ日々が続く。何とか、大手のペットショップから内定をもらえた。  久しぶりに就職が決まったアニメ・マンガ同好会の友人、三石(みついし)慈朗(じろう)が遊びに来た。窓際で、天井から吊られた鳥かごのインコを見つめていた。 「インコ飼い始めたの?」 「うん」  俺も何かアニメ以外の趣味を見つけようかなーと、つぶやく慈朗(じろう)と一緒に、大ファンのアイドル声優さんがヒロインを演じる、アニメDVDを鑑賞する日々が続く。    そんな折、久しぶりに合コンに参加した。女子の一人が僕がインコを飼っていることに瞳を輝かせながら、聞いてくれた。  ”異性の友人”になってくれ、何度かデートを重ねた。自宅に遊びに来ることになった。女の子が家に遊びに来るのは、幼稚園以来だ。  慈朗(じろう)の助言で、自室にあるマンガやアニメのDVDは片付けた方が良いと言われ、全て天井裏に移動させた。    彼女が遊びに来る当日になった。玄関でお袋とあいさつして、僕の部屋に上がる。キッチンでは、お袋がジュースと菓子を用意していた。 「僕がやるよ」  お袋にに甘えていると思われたら失点になる。 「怖い!」  彼女の声がドア越しにも響く。血相を変ええながら、部屋に飛び込むとインコが言う。 「お兄ちゃんのこと、べ、別に好きじゃないんだからね」  何度も繰り返し鑑賞した、アニメ作品のヒロインの決め台詞だ。  インコが声優さんにそっくりに喋ったのだ。俺は嬉しさで飛び上がりそうだった。  彼女は慌てて玄関で靴を履き、急用ができた、と言いながら立ち去ってしまった。  彼女に電話をしてもメールをしても、いつも用事があるらしい。  俺は人間の女性に失恋したのだ。理由を電話で尋ねれた。  彼女はオタクだから、とか言っている。アニメやマンガに偏見にを持ってるなら、こっちからお断りだ。  最近はインコの世話ばかりしている。(完)
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