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娘が言葉を失ったことを知らされた王さまは、すぐに、お城に仕える魔法使いや、お医者さんにお姫さまの治療を命じます。
しかし、言葉が戻ることはありませんでした。王さまは、国の内外にお触れを出します。
〈娘が言葉を話せるようにした者には、望む褒美を何でもやろう〉
国の各地に立て札が立てられました。
お医者さんや、魔法使いも、お城にやってきました。どんなお薬を飲んでも、どんな魔法を使っても、声は戻りません。
お姫さまの声を取り戻すべく、多くの人がお城にやって来ました。
笑わせれば、声が出るはず、そう考えたお笑い芸人さんも、お城にやって来ました。お姫さまは、口の端を上げながらも、声は出ません。
お姫さまの声は、戻ることはありませんでした。
それから数年が経ちました。
ある日の朝、旅の魔法使いと名乗る者が、お城の門番に白い息を吐きながら、告げます。
フードを目深に被り、顔を隠していました。
「私が魔法でお姫さまの呪いを解きましょう」
王さま、王妃さま、お姫さまは、魔法使いと、お城の大広間で会いました。お姫さまは、半ば諦め顔で魔法使いにスカートの裾を掴みながら、一礼しました。
そして、お姫さまは、ポケットから出した便せんに、ペンですらすら文字を書いて、魔法使いに渡しました。
〈おはようございます。初めまして、呪いを解いてくださいませ。かしこ〉
「姫さま、かしこまりました」
魔法使いが片腕に小瓶を握り締めながら、不思議な呪文を唱えます。
「あら、声が出た! また話せるようになったわ」
お姫さまは、嬉しさで、両親に囲まれながら、泣きじゃくっています。
対照的に冷静な王さまが、魔法使いに問いかけます。
「褒美を取らせよう。そなたが好きな物は何か」
「私は困っている姫さまを助けたかっただけです。褒美はいりません。それでは、さらば」
魔法使いは、床に擦りそうなコートで踵を返し、お城を出て行きました。お姫さまが叫びます。
「さっきは、お父さまとお母様が、危ないから言わなかったけど、あの人があの時、わたくしに呪いをかけた犯人! 声が同じですもの。お父様、兵士を集めて逮捕してくださいませ」
王さま、王妃さま、そして、遅れてやってきた家庭教師の先生は、代わる代わる、お姫さまを叱ります。明確な証拠もなく、人を疑るのは良くないそうです。
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