お姫様が言えなかった言葉【ダークファンタジー版】

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 ようやく声が戻っても、話す内容を誰も信じてくれないので、お姫さまは、自分の部屋に戻ります。椅子に座り、うな垂れながら、落ち込んでいました。  便箋が置きっぱなしの、机の前に座って、頭を抱えています。  トントントン。  ドアをノックする音がしました。お姫さまは数年来のクセで、返事を文字で机で、便箋に書こうとして、ペンを持つ手が止まります。 「どうぞ」  声で応じれば、家庭教師の先生が、神妙な面持ちで入ってきました。 「先生、どうしてわたくしの言うことを信じてくださらないのですか?」  家庭教師の先生はドアを後ろ手で閉めてから、声を潜めます。 「――お姫さま、これから言うことは、私が言ったと誰にも言わないって約束してくれますか」 「はい? 先生」 「じつは、姫さまが、読み書きが苦手だったので、王さまと王妃さまのご命令で、私が不審な魔法使いのふりをして、声が出なくなる呪いを、魔法薬(まほうやく)でかけたのです。声が出ない数年で、お姫さまは、字はきれいになり、作文もお手紙も読んだり、しかも外国語も読み書きしたり、話したり聞いたりまで、できるようになりました」 「せ、先生と魔法使いは、声が違いますわ」 「あの魔法薬で声も変えれたのです。さっきの魔法使いは私で、呪いを解く魔法薬を使っただけです」  お姫様は、目を限界まで開きながら、(うなず)きます。 「――父と母が、勉強を覚えようとしない、わたくしのためにしてくれたのですね」 「さようでございます。ご結婚なさって、読み書きが苦手では、苦労をなさいます」 「先生、魔法薬はどこで手に入れたのですか?」 「王家に先祖代々伝わる秘伝の製法で作ったそうです」 「心を落ち着かせたいので、お城の地下にある書斎で一人にしてください」  その後、お姫さまは、地下の書斎に(こも)りました。一心不乱に、ペンを走らせ、手紙を書き続けました。相手は、かつてプロポーズしてきた近隣諸国の王子たちです。 「父と母を殺した方と、わたくしは結婚します。わたしと結婚すれば、この国の正当なる王になれます。それから、わたくしの声を奪った魔法使いこと、家庭教師を処刑した方には、一生遊んで暮らせるお金を差し上げます」
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