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ここは魔法が存在するどこかの世界。
ある国に、お姫さまがいました。とても礼儀正しく、剣の腕前も高く、優しさも兼ね備えていました。
武道で養われた気品もあり、国民だけでなく、隣接する国々でも有名です。
そんなお姫さまですから、十代後半になった頃、多くの男性が結婚を申し込みました。
ほかの国の王子様は、直接お城まで会いに来たのです。
しかし、答えはいつも、「ありがたいのですが、お断りします」でした。
お姫さまと直接話す機会がない、一般民衆の人々はラブレターを書きました。
お姫さまは、お父さんである、王様が最近雇った、女性家庭教師の先生に、いつも同じ答えをします。
「会ったこともない男性と結婚するつもりはありませんわ。返事の手紙は不要です」
「しかし、姫さま……」
「書きません」
お姫さまのお父さんの王さまや、お母さんの王妃さまは、早く結婚相手を見つけて欲しかったのです。
ある日の夜、お姫様は、自分の部屋でランプの明かりに照らされながら、家庭教師の先生から、勉強を習っていました。
家庭教師の先生と机を挟んで、座りながら、お姫さまは質問をします。
「先生、剣技と礼法のほかに、どうして、勉強を覚えないといけないの?」
「少し、お化粧直しをして参ります」
「先生、行ってらっしゃいませ」
ガチャリ。
突然、窓のカギが開く音が部屋に響きます。
「誰ですか?」
満月を背後にして、全身を黒い服に身を包んだ人が、窓枠に立ち塞がるように立っています。
夜風でひらひら揺れるカーテンを、手でどかしながら、部屋の床に降り立ちました。片手には、ガラスの小瓶があり、ランプの炎を不気味に反射しています。
「私は魔女だ。そなたが姫か? 結婚するまで、言葉を話せない、呪いをかけてやる」
お姫さは、魔女を睨みつけました。
部屋から廊下に飛び出ようと振り返れば、家庭教師の先生が、扉から入って来ます。
「姫さま、今のうちにお逃げください」
一目散にお姫さまは廊下に駆け出します。廊下で立っている護衛の兵士に、助けを呼ぼうとしました。
しかし、叫ぼうにも、声が出ないのです。
涙を目に溜めながら、身振り手振りで、兵士に異変を知らせとしたのです。
兵士は首を傾げていました。
お姫さまは、兵士が腰に下げている剣を奪い取り、部屋に駆け戻ります。
黒い人影は消え去ったあとでした。
開かれた窓から、お姫さまが剣を手に、身を乗り出します。魔女の姿は夜闇にかき消されてしまいました。
喋れないお姫さまに代わり、家庭教師の先生が、駆けつけた兵士たちに言葉で事件を伝えました。
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