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「飛永、なんか久しぶりだな。元気だったか?」
安堂くんが、
僕に話しかける。
そういう素振りも、
望さんは気に掛ける。
だから、
僕は素っ気無い返事をせざるを得ない。
「う、うん、元気、だよ。」
「そっか、よかった。」
安堂くんの笑顔が眩しかった。
久しぶりの望さん以外の笑顔・・・
恋しい・・・
何故かそういう気持ちが湧き上がった。
「飛永、今日は・・・」
「僕、大学辞めることにしたから。もう、あ、会えません。」
「え・・・・?・・・・・」
安堂くんの顔が愕然としてる。
僕は、
その顔を見ていられなかった。
その代わりに、
望さんが答えてくれた。
「柊は、もう、大学に通う意味が無いので、退学することにしたんです。」
「え・・・・何それ・・・・・?」
僕は俯いた。
安堂くんから目を逸らせた。
「お前・・・いいのかよ?飛永・・・大学辞めても・・・」
僕は、
安堂くんの顔を見られなかった。
「う、うん。もう、通う意味が無くなったから・・・」
「飛永!!もう会えないのか?!!」
安堂くんが遠ざかる。
これでいい・・・
いいんだ・・・
安堂くんを苦しめることも無くなる・・・
「柊・・・大丈夫?・・・」
望さんが心配するように覗き込んでいた。
僕は笑顔を見せた。
「は、はい。大丈夫です。望さんと一緒なら・・・」
陵くんには、
もう一生会うことは無くなるだろうな・・・
僕は覚悟を決めていた。
大学の事務所を訪れて、
退学届けを提出した。
それは本当に、
呆気なく受理された。
次は・・・
バイト先に連れて行ってくれた。
大好きな書店だったけれど・・・
望さんの蔵書は僕の興味を惹くのに十分だった。
だから・・・
「申し訳ありません。バイトを、辞めさせてください。」
僕のその申し出は、
すぐに許可された。
呆気ないくらいに。
遠藤くんが、
送別会を企画してくれた。
でもそれも・・・
「そういう気遣いは要りません。申し訳ありません。急な話で・・・」
望さんがそう言うと、
誰も何も言えなかった。
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