あるべき姿

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不思議だった。 目の前に居る望さんを見ても、 愛おしい気持ちは湧いてこなかった。 ただ、 随分と疲れて見えた。 僕が出て行った後・・・ 僕のことを思って居てくれたのかな? 僕はそのことが少し嬉しかった。 「の、望さん・・・さようなら・・・今までありがとうございました。」 僕はハッキリと、 望さんに向かって言葉を言い切れた。 安堂くんが僕の肘を支えてくれる。 その顔を見ると、 僕はもう、 本当に望さんのことは過去のことになったんだ・・・ そう思えた。 安堂くんがずっとずっと、 僕のことを思ってくれていたことを知った。 それがどれほど嬉しかったか。 望さんと居る時、 僕はいつもいつも守られていた。 僕はいつもいつも受け身だった。 望さんが望むように・・・ ただそれだけを思って居た。 でも・・・ ここで、 監禁めいたことをされた時・・・ 僕の心は壊れていった。 僕はもっと外の世界を知りたい・・・ そう強く思った。 でも望さんは違った。 僕をこの別荘に囲い込んで、 飼い殺した。 僕の心は死んでいった。 安堂くんとは、 対等の関係で居られる。 僕の望む関係が保たれる。 そういう風に、 安堂くんがしてくれる。 だから・・・ 僕が居るべき所は安堂くんの傍だから・・・ 望さん、 ごめんなさい。 貴方と共には行けません。 立ち上がった望さんは、 瞳から綺麗な涙を流していた。 でもそれはもう、 乾いてきていた。 本来の望さんの顔が現れる。 分かってくれた・・・・・・ 望さんは、右手を差し出してきた。 「柊のこれからの幸せを祈って・・・」 「あ、ありがとうございます。」 僕はその右手を握り返した。 こうして、 僕と望さんの関係は終わった。 僕の傍で、 安堂くんが僕を見守っていてくれた。
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