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「東京?」
確認した弥生に健司は少し渋い表情で頷いた。
「ああ、本社勤務に決まった。親父もお袋もびっくりしてる。
そんなに優秀ってわけじゃないのに、どうして本社なんだろうって。それに、姉ちゃんも地元だろ。俺も残るって思ってたみたいでさ。
俺もそのつもりだったんだけどね」
弥生の恋人の健司は、全国規模の流通小売業に就職を決めた。商学部の健司は事務職に配属予定で、その部分は弥生も納得できる。でも、どうして、北関東の県にある大学出身の健司が東京にある本社勤務なのか、全然理解できなかった。
もちろん、光栄なことというのは分かる。全国規模の企業で、日本中に支社や店舗がある。だから、本社勤務のできる人は、きっとものすごく少ないはずだ。だから喜ぶべきなのに、弥生は素直に祝福を言えなかった。
恋人の複雑な感情を健司も分かっているようで、申し訳ない表情だった。
「ごめんな。勤務地希望きちんと言ってれば違ったかもな。でも、俺みたいなのが本社勤務って、全然想像もしてなかったからよ」
健司の言葉に罪悪感が湧いた。彼は地元での勤務が希望だった。それなら彼の前で不満を言っても仕方ない。
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