第一章 最悪の金曜日~やけ酒と過ちの一夜

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 彼女はグラスの足を持つと、味わいもしないで一気にカクテルを飲み干した。軽い後味で、アルコール度数は低そうだった。  「強い酒って言ったでしょ」  すごむ弥生(みお)に、涼は年上なのに押されているのが分かる。  (どうせ、あたしは可愛げのない女なのよ……)  (にら)むと、涼は渋々違うカクテルを作りだした。弥生も知っている有名なカクテルだ。  マンハッタン*-カクテルの女王という異名があるそうだ。  度数が割と高いとも聞いている。最後にチェリーを入れるのが正式だけど、可愛いと思うだけで苛立(いらだ)つ。女王なら、もっと凛々しくしてほしいと、弥生は意味不明な文句を心の中でつぶやいていた……  「そのままでいいから。チェリー入れないで」  作っている涼は、荒れる弥生に(おび)えたまま頷くと、何も入れないで彼女の前に出した。  (こんな女なら何度も見てるでしょ)  ホストクラブなら、いろいろな理由で荒れている女性が来るのは日常のはずなのにと、弥生は涼を斜めに見た。 *ウィスキーをベースに、スイート・ベルモット(フレーバードワイン)とアンゴスチュラ・ビターズ(複数の材料を蒸留酒に付け込んで作る(にが)みの強いアルコール飲料)を氷入りのミキシンググラスでステアして(混ぜて)、カクテルグラスに注ぎます。ピンに刺したチェリーを加えたりします。
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