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弥生はマンハッタンも即座に飲み干すと、次のカクテルを作るように涼に要求した。黙ってカクテルを飲んでいく弥生は、何杯飲んでも酔えない気分だった。
胸の奥が空っぽになったようで、そこにいくら酒を注いでも満たされない。
何時間経ったのか、気づくと客は弥生だけになっていた。それでも、彼女は店を出たくなかった。さすがに酔いが回って動けない。もし、動けたとしてもどこにも行きたくない。
身体はふらふらなのに、頭はまだ冴えていた。虚しい気持ちが心を冷えさせる。
「涼、もう帰っていいよ。店は閉めるから」
聞き心地のいい声が頭上から降ってきた。
「え、あの……でも……」
ためらう涼の声が続く。
「大丈夫だって。俺に任せて」
頷く気配がすると、涼が歩いていくのが分かった。静かな靴音は、この場の沈黙を際立たせた。
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