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冬夜が現在住んでいるマンションに、弥生は一度も行ったことはない。
ホストの頃に住んでいた部屋と同じ間取りなのは芽生から聞いた。オーナーが同じだかららしい。
以前の部屋に一度だけ入った時、玄関とリビングしか見ていない。それぞれ違う緑色を部屋の基本カラーにしていて、その色彩感覚に驚いた記憶が弥生にはある。
そして、溢れるような観葉植物にも驚いている。
でも、あの時は芽生と一緒だった。彼女がいない時に冬夜の部屋に入る……その事実が、ありえない状況だと教えてきたけど、失恋のショックと酔いで気にもなっていない弥生だ。
「弥生ちゃん、もう一回訊くよ。自分のアパートに、ほんとに帰らなくてもいいの?」
タクシーを降りて冬夜は確認してきた。弥生は頷いた。
「……いいんだって。捨てられたあたしなんて、冬夜さんも本当は欲しくないんでしょ。でも、同情でもいいんだ。一人にしないで……」
「誰が欲しくないって言った?」
答えを必要としない言葉は、酔った弥生の耳にも苛立って聞こえた。
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