第一章 最悪の金曜日~やけ酒と過ちの一夜

24/53
前へ
/418ページ
次へ
 冬夜が現在住んでいるマンションに、弥生(みお)は一度も行ったことはない。  ホストの頃に住んでいた部屋と同じ間取りなのは芽生から聞いた。オーナーが同じだかららしい。  以前の部屋に一度だけ入った時、玄関とリビングしか見ていない。それぞれ違う緑色を部屋の基本カラーにしていて、その色彩感覚に驚いた記憶が弥生にはある。  そして、(あふ)れるような観葉植物にも驚いている。  でも、あの時は芽生と一緒だった。彼女がいない時に冬夜の部屋に入る……その事実が、ありえない状況だと教えてきたけど、失恋のショックと酔いで気にもなっていない弥生だ。  「弥生ちゃん、もう一回()くよ。自分のアパートに、ほんとに帰らなくてもいいの?」  タクシーを降りて冬夜は確認してきた。弥生は頷いた。  「……いいんだって。捨てられたあたしなんて、冬夜さんも本当は欲しくないんでしょ。でも、同情でもいいんだ。一人にしないで……」  「誰が欲しくないって言った?」  答えを必要としない言葉は、酔った弥生の耳にも苛立(いらだ)って聞こえた。
/418ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4059人が本棚に入れています
本棚に追加