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友人を羨ましいとは思うけど、弥生は結婚はまだ先だと思っていた。彼女の恋人の健司は、東京勤務になって独り暮らしをすることになったからだ。
地元の県に残る弥生とは遠距離恋愛になる。そのことに不安を感じるのは否定できなかった。
でも、芽生の夫の昴流は、中学から高校卒業まで四年間も遠距離恋愛を続けた。距離が離れても気持ちが変わらない人もいる。それは心強い事実だった。
弥生と健司も交際は四年になる。他の異性に心が動かなかった二人だから大丈夫。そう信じたかった。
「料理頑張ってね。食べれるもの作るんだよ」
新幹線の乗り場で、わざと軽い口調で弥生は言った。気をつけないと泣いてしまいそうだった。
「大丈夫だ。それより、寂しい思いさせてごめんな。できるだけ帰ってくるから。弥生も東京に来てくれよ。
新幹線で一時間だぞ。遠くないって」
「うん……分かった。会いに行くね」
頬にそっと触れてきた恋人を、弥生は車両が視界から消えるまで見送っていた。
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