光のある場所。

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 玄関を開けて、一歩外へ出た僕は立ち止まり、両手をほっぺに当てた。 まだ、温かい。  さっきまで温かい家の中に入っていたけど、そんなことは関係なく足先から徐々に冷たくなり始めている。首元にはマフラーを。耳には耳当てを。   上半身の防寒は完璧だと自負している。 でも、足元には自信がない。   僕は空を見て、いつものように雲の様子を窺った。 「よし! 大丈夫!」  空に雲は見当たらない。危険な鳥も見当たらない。ただ、冷たい空気が空の青を際立たせて見せているのは何となく分かる。  昨日より風が弱いのを確信して、僕はもう一歩、足を踏み出す。  陰から光のある方へ。そう、温かい日向へ。  後ろへ振り返ると母さんが僕を心配そうに見ていた。何かを口にしたけど、僕には聞こえなかった。もう会えないのかもしれないね。最近、母さんはイライラして僕から距離を取ろうとしていたけど、今、後ろに見える母さんの顔はあの時のように温かく、そして優しい。  今まで僕を守ってくれてありがとう。僕に色々なことを教えてくれてありがとう。僕はここから出ていかなくちゃいけないんだね。  もうそんなに時間が経ったんだね。 「光の射す方へ進むのよ」って、母さんは言ってたから、僕は信じて進むんだ。  それじゃ。母さん、行ってきます。  そして、さようなら……。349311dc-9ac2-488a-b483-a205eb4bfdd9
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