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「それでは、紗彩を連れていきますね」
鷹也はそれ以上の会話を必要としないようだ。さっさと紗彩の席に行って荷物を持った。
「紗彩、後で連絡しなさいよ」
兄と総務部を出る前に、紗彩は裕子に耳打ちされた。
初めて知らされた彼女が驚くのは当たり前。隠していて申し訳ないと思った紗彩は頷いた。
「落ちついたら連絡します」
紗彩が約束したからか、裕子はそれ以上は何も言わないで、両手に乗る程度の箱を渡してきた。
「退職の餞別よ。実用品だから使ってね」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げた紗彩を、裕子は穏やかな表情で見つめていた。
他の誰かから何か言われる前に、鷹也は紗彩と一緒に総務部を出た。
良一が悔しそうな表情を浮かべているのが可笑しくて爽快だった。
普通の会社の役員など、霧山商事の専務秘書にはまったく敵わない。
彼は極上品を逃したのだ。紗彩を侮ったから。
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