第三章 終わりと始まり

2/57
1412人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 紗彩(さや)は自宅に入ってから大きく息をついた。  ここは良一(りょういち)には知られていない。だから、絶対に見つかる心配はない。でも、勤務先を突きとめられる不安があった。  紗彩は総務部で、仕事の内容は営業とは無関係だった。だから、良一の営業先は、匡輔(きょうすけ)の会社しか知らない。  交際している時も聞く必要を感じていなかったし、別れて退職したら完全にどうでもよくなっていた。  でも、今日はそのことを微かに悔やんだ。もし雑談の中でも聞いていたら、もっと用心をしていただろう。あの場所で会うとは本当に予想外だった。  想定していなくても二人は予期しない再会をした。そうなると、良一は紗彩の行動範囲の一部を知ったわけだ。  金曜日の夜にあの場所にいる……紗彩が住んでいないなら、次に考えるのは彼女の勤務先との距離だ。  帰宅途中に飲むなら、自宅か勤務先の近くの店を選ぶことが多い。飲食店の多い場所なら違うけど、会ったのは有名地区ではない。  良一は、紗彩の兄が霧山(きりやま)商事に勤務していると知った。  そして、鷹也(たかや)は総務部長に、自分が妹の再就職先を見つけると言った。それなら、紗彩の転職先を霧山グループと推測しても不思議ではない。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!