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恋つぼみ
*
恋がこんなに難しいものだとは、知らなかった。
好きです。
たったこれだけの言葉を口にできない私は、情けないだろうか。いくじなしだろうか。
たった四字の言葉だけれど、そこには甘酸っぱくて切ない気持ちがいっぱい、いっぱい詰まっている。
だから、胸の奥がきゅっと苦しくなって、上手く伝えられないのだ。手が触れ合いそうな距離に、呼吸が感じられそうな距離にいる彼にさえも。
いつもの帰り道。しんしんと降り積もる雪。白く染められていく傘。
私の、幸福のひととき。
「じゃあ、俺こっちだから」
終わりの合図は、彼の言葉と曲がり角。
ああ、また今日も来てしまった。
心の中でつぶやいて、小さく笑う。
「じゃあね。また明日」
「ああ」
別れの会話。遠ざかる足音。
「また、言えなかったな……」
彼の背中が、名残惜しい。
今日こそ。
そう意気込んでいたのに、
「桜が見たい」
彼の一言で、なんだか拍子抜けしてしまった。
「まだ二月だよ?」
問うように言うと、彼は「雪は嫌いだ。ここによくない」と胸に手を当てて苦い顔をする。
彼はあまり体が強くないようだ。特に、天気や気圧が安定しないこの時期は体調を崩しやすいらしく、学校も休みがちになる。
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