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(えーっなんで? なんとか言わないと、このまま私の彼氏カッコ仮扱いされちゃうよ?)
「いや、違って……」
「もー照れなくてもいいから」
彼が言わない気なら自分で誤解を解かなければと思って否定したことが、さらなる勘違いを呼ぶ。
優樹はあわあわと口を開閉してどうすべきかと考え込む。頼みの綱である彼はすっかり口を閉ざしている。
(あ、でもこれは二次会回避のまたとないチャンス!?)
そこまで考えて、優樹ははっと息をのむ。
(これは……ユウキくんからの盛大なアシスト?)
帰りたいと言ったから助けに来てくれた。その口実が彼氏のふりなのだとしたら?
優樹は横目でちらりと彼の顔をうかがった。ポーカーフェイスで心情ははかりきれないが、今の推理は当たらずとも遠からずだと思われた。
(自己犠牲の精神……! 救世主では!?)
メッセージを送った時は軽い愚痴のつもりだったのに、そんなに思い詰めているような印象を与えてしまったのだろうか。だとしたら本当に申し訳ない。この恩は必ず返す、と心に誓う。
「失礼しまーす、伝票おいておきまーす」
明るい髪色の店員がガラリと戸を開けて、黒いバインダーをテーブルに置いた。それを手に取ろうとしたところで、横からかっさらわれる。
「女子は三千円だけもらえる? ユウキくんは自分の飲んだ分だけ」
相手方の男性が素早く指示を出す。
「えー、足りますか?」
「こういう時は男が余計に出すもんでしょ。女の子は用意があるからね」
さっきは女子4男子6の割合と言っていたが、気が変わったらしい。さすがに幹事はそうもいかないと多目に出そうとすると、その手は引き戻される。
見れば彼が自分の財布から五千円札を出して伝票を持った相手に差し出していた。
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