3911人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
(いや、さすがにね!?)
テーブルの下で握りしめたお札を必死にアピールするけれど、彼は受け取ってくれない。弱りきって眉を下げると、小さく「あとで」と声が聴こえた。
彼はすでにマスクをつけ直している。
「わかった?」
マスク越しにくぐもった声でささやかれ、優樹はしぶしぶお札を引っ込めた。
「……はい」
「よし」
そうこうしているうちに全員が個室を出て、店の外へ向かっていく。みんなの背中を追って店舗の外階段を下っていこうとすると、少し前を行っていた彼が振り返る。すでに一段降りていて、いつもより目線が近い。
階段の真ん中に立ち塞がる形なので、優樹も足を止める。次の瞬間、その手がさっと優樹の手首を握った。
「気をつけてね」
「えっ、ああ、はい」
ぎこちなく返事をすると、手を引かれるままに階段を降りる。
(……いや、なに? この状況)
あまりにも自然にエスコートされるから、受け入れる以外の選択肢がない。心の声を騒がしくしながら、他のメンバーが待つ場所を目指す。
階段を降りきったところで、つながれた指先は離れていった。そのことにほっとしている自分に気づく。
(はぁ、心臓に悪い……)
「じゃあ、俺たちはこれで」
軽い円陣を作って集合しているみんなに軽く一礼して、彼がくるりと背を向けた。
「はーい、またね」
「今度、詳しいこと教えてよね」
「う、うん」
嘘を貫き通す覚悟を決めて、優樹はみんなに手を振った。
最初のコメントを投稿しよう!