11月XX日、金曜19:57

7/8

3911人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
(いや、さすがにね!?)  テーブルの下で握りしめたお札を必死にアピールするけれど、彼は受け取ってくれない。弱りきって眉を下げると、小さく「あとで」と声が聴こえた。  彼はすでにマスクをつけ直している。 「わかった?」 マスク越しにくぐもった声でささやかれ、優樹はしぶしぶお札を引っ込めた。 「……はい」 「よし」  そうこうしているうちに全員が個室を出て、店の外へ向かっていく。みんなの背中を追って店舗の外階段を下っていこうとすると、少し前を行っていた彼が振り返る。すでに一段降りていて、いつもより目線が近い。  階段の真ん中に立ち塞がる形なので、優樹も足を止める。次の瞬間、その手がさっと優樹の手首を握った。 「気をつけてね」 「えっ、ああ、はい」  ぎこちなく返事をすると、手を引かれるままに階段を降りる。 (……いや、なに? この状況)  あまりにも自然にエスコートされるから、受け入れる以外の選択肢がない。心の声を騒がしくしながら、他のメンバーが待つ場所を目指す。  階段を降りきったところで、つながれた指先は離れていった。そのことにほっとしている自分に気づく。 (はぁ、心臓に悪い……) 「じゃあ、俺たちはこれで」  軽い円陣を作って集合しているみんなに軽く一礼して、彼がくるりと背を向けた。 「はーい、またね」 「今度、詳しいこと教えてよね」 「う、うん」  嘘を貫き通す覚悟を決めて、優樹はみんなに手を振った。  
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3911人が本棚に入れています
本棚に追加