11月XX日、金曜19:57

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「あの、まずはお金……」 「まだ。みんな見てるでしょ」  コートのポケットに入れていた財布を出しかけると、小声でたしなめられた。確かに背中越しに視線を感じるような気がする。  一本道を逸れると、目の前に人通りの多い商店街が見えてきた。一度後ろを振り返って後に続く者がいないかを確認してから、もう一度呼びかけようとしする。けれどその前に、彼のほうが先に口を開いた。 「帰るなら駅まで送るよ」 「あ……えっと、」  帰りたい、とメッセージしたことを受けてそう言ってくれたのはわかる。でも、この状態で帰れと言われるのは座りが悪い。 「その前にお礼とお詫び、してもいい?」 「お詫び?」 「うん。だって急に呼び出すことになっちゃったから」 ちらりと目線を上げて、彼の表情をうかがう。マスクのせいで、どういう感情なのかはよくわからなかった。 「あ、でも残業って言ってたし、疲れてるよね。そしたらまた別の時にでも……」 早口で告げると、彼はゆっくりと目をまたたいた。 「まだ帰らなくて平気?」 「うん、私は全然平気」 「無理してない? さっきは帰りたいって言ってたでしょ」 「してない! あれは一時の気の迷いで、今はユウキくんが来てくれたから大丈夫」  拳を握りながら勢い込むと、彼がわずかに目を細めるのがわかった。 「じゃあ、まだ一緒にいられるんだ」 「そうだね……?」  噛みしめるような声音に、またしても優樹の胸の内に小さな違和感が生じる。 (なんか、今日はグイグイ来るな……ユウキくんってこんな性格だっけ)  自分に問いかけてみるけれど、答えが出ようはずもない。違和感の正体を突き止めるのは後回しにすることに決めた。
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