3925人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ、お金!」
「違う」
急いで店を出る時にとっさにコートのポケットにしまっておいたお札を探り出そうとするが、その前に一蹴されてしまった。
「ええ……?」
首をひねっていると、彼は小さくため息をついた。
「手」
「……手?」
自分の手を持ち上げて彼の手と交互に見比べていると、大きなてのひらが返されて、優樹の指先をそっと握り込んだ。
「危なっかしい」
ただのひと言告げられて、そのまま手を引かれる。そうすると優樹は足を踏み出さないわけにはいかない。
彼はゆっくりとした歩みで進んでいく。うながされるままに後ろからついていきながら、優樹は心の中で言葉にならない叫びをあげていた。
(ちょっと! どういう状況なの!?)
優樹の察しの悪さが邪魔をしたが、スパダリさながらの流れるような動作で手をつながれて、感心の域だ。
(もしかしてユウキくん、すごい手練なのでは?)
こういう時に、すぐに分析から入ってしまうのが優樹の恋愛ベタの所以だった。ときめきもあるにはあるのだが、後ろめたさが先に立つ。友人関係を築いてきた相手に異性を見ることは、悪いことをしているような気分だった。歩みながら、前を行く彼の横顔を盗み見る。
(だからマスクで何もわからないんだって……てか手、あったかいな)
乾燥した皮膚越しに伝わるぬくもりは、末端冷え性の優樹が熱いと感じるくらいだった。
最初のコメントを投稿しよう!