ガーデンプレイスまでの距離

3/7
前へ
/179ページ
次へ
「あっ、お金!」 「違う」  急いで店を出る時にとっさにコートのポケットにしまっておいたお札を探り出そうとするが、その前に一蹴されてしまった。 「ええ……?」  首をひねっていると、彼は小さくため息をついた。 「手」 「……手?」  自分の手を持ち上げて彼の手と交互に見比べていると、大きなてのひらが返されて、優樹の指先をそっと握り込んだ。 「危なっかしい」  ただのひと言告げられて、そのまま手を引かれる。そうすると優樹は足を踏み出さないわけにはいかない。  彼はゆっくりとした歩みで進んでいく。うながされるままに後ろからついていきながら、優樹は心の中で言葉にならない叫びをあげていた。 (ちょっと! どういう状況なの!?)  優樹の察しの悪さが邪魔をしたが、スパダリさながらの流れるような動作で手をつながれて、感心の域だ。 (もしかしてユウキくん、すごい手練(てだれ)なのでは?)  こういう時に、すぐに分析から入ってしまうのが優樹の恋愛ベタの所以(ゆえん)だった。ときめきもあるにはあるのだが、後ろめたさが先に立つ。友人関係を築いてきた相手に異性を見ることは、悪いことをしているような気分だった。歩みながら、前を行く彼の横顔を盗み見る。 (だからマスクで何もわからないんだって……てか手、あったかいな)  乾燥した皮膚越しに伝わるぬくもりは、末端冷え性の優樹が熱いと感じるくらいだった。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3925人が本棚に入れています
本棚に追加