ガーデンプレイスまでの距離

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 右に見える植え込みから前方に向けて、青い電飾が幻想的な光を放っている。クリスマスといえば赤、緑、金という固定概念を(くつがえ)す潔い色合いに、ため息が漏れる。 「店はこの先なんだけど、ちょっと見ていこうか」 「あっ、うん……」  彼からの提案に、優樹はぎこちなくうなずいた。まだ足を踏み入れたばかりだと言うのに、すっかり圧倒されてしまっていた。ブルーの濃淡は一歩足を踏み出すごとにキラキラとまたたいて、目もあやだ。  それを横切るようにして広場の中央を通ると、目の前に巨大なツリーが出現する。赤を基調にしたオーナメントと、頂点には輝く星が飾られていた。  ツリーを取り巻くイルミネーションは、青から紫、ピンクとグラデーションがかかったような輝きを放っている。 「キレイ……! 大きいねえ」  語彙力がなくて見たままのことしか言えないのが申し訳ないくらいだが、彼は笑ったりからかったりせず、静かにこの光景を共有してくれた。  ツリーに見とれながら歩き続けると、すぐに緩い坂に差し掛かる。左右のプロムナードは控えめな光を放ち、中央に据えられたシャンデリアを引き立てている。 「振り返ってみて」  坂の一番下に到着すると、彼がそう言って足を止めた。言われたとおりに背後を見ると、プロムナードのシンプルなツリーから最初に見た色鮮やかなツリーまでが一望できる。  足元の石畳も相まって、まるで外国の街並みに紛れ込んだようだ。その光景に、優樹は声も出せずに見入った。 「写真撮る?」 「いい?」  片手でスマホを取り出して構えるが、自動モードのフラッシュが作動してしまい残念な仕上がりになってしまった。設定をナイトモードにしてみるけれど、今度は暗すぎる。 「俺ので撮って、後で送ろうか」 「ありがとう、お世話かけます……」  彼が片手でポケットからスマホを取り出す。シャッター音が三度鳴って撮影は終わったかに思われたが、彼は今度は優樹にスマホを向けた。 「ゆきさんも写ったら?」 「ええっいいよ!」  即座に否定する。両手を胸の前で振り、ジェスチャーも使って全身で拒否を示した。 「せっかくなのに」 「私なんて写ってたら、せっかくのナントカ映えが台無しだよ」  自嘲ぎみに答えれば、彼はちょいと頭を傾けた。 「俺はゆきさんのこと、撮ってみたいけどね」
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