3926人が本棚に入れています
本棚に追加
ユウキくん、というのは優樹が二年ほど前に友人の付き合いで何度か参加した社会人フットサルの活動で出会った相手だった。
本名は神谷友紀。確か、東京の湾岸エリアにある会社でエンジニアをしている。
フットサルサークルでは、固定の数人のメンバー以外はその日に都合がつく人間が参加するため毎回メンバーが変わる。
そのため参加者は胸に名札をつけておくのだが、彼とはお互い名前が優樹と友紀、共に『ゆうき』と読めるという縁で、なんとなく連絡先を交換した。
実際は優樹はゆきと読むので完全に一致しているわけではないのだが、きっかけとしては十分だろう。
その彼から、メッセージが来ている。
『今日、恵比寿だっけ?』
飲み会の場所のことだろう。実は数日前、今日の飲み会の男性メンバーに一人欠員が出てしまったため、代わりに来てもらえないかと声をかけていた。
急だったこともあり、仕事で時間通りに来られる保証がないと申し訳なさそうに断られてしまったのが最後の記憶だ。だから今、連絡が来たことが不思議だった。
__うん。どうして?
フリックで短い返信を送った後で、ふと気づいた。
(もしかして、合流したかったのかな?)
だとしたら悪いことをしてしまった。気を利かせて、残業終わったら合流する? とでも聞いてあげればよかった。
『ゆきさん、まだ飲み会?』
__そうだよ。
『まだいる?』
__できれば帰りたい。
この場にいないからとつい本音を漏らしてしまう。
『つまらないんだ』
ずばりと言い当てられて、どう返そうかと迷う。そうだと言ったら嘘になるし、違うと言えばなぜ帰りたいんだと筋が通らない。
テーブルの上では優樹そっちのけで、好みの芸能人について盛り上がっている。
『正直に言っていいよ』
そっけないメッセージにうながされて、苦笑する。さすがにこの場でつまらないとは言えない。そこで優樹は席を立つと、洗面所に向かった。
「お手洗い行ってくるね」
一応断ってはみたが、ちょうど話が盛り上がっている最中だったため、返事をする者は誰もいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!