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肩越しに見下ろされて問われる。
「あ、その……嫌いっていうか、慣れなくて」
最大限オブラートにくるんで伝えると、割にしっかりとした眉がしゅんと下がる。傷つけてしまっただろうか。
「嫌じゃないよ!? 落ち着かないだけ! 私、このつなぎ方初めてかもっ」
これは真実だ。今までお付き合いをした相手と手をつなぐことはあった。でも、それも遠い過去の話だし、恋人つなぎなんてしたことはない。バカップルじみていてどうも気恥ずかしく、したいと思うことすらなかった。
(相手からもされなかったしさ。普通の女子はこういうの好きなのかなあ)
我が身を省みて、女子力の欠如に危機感を抱く。
「嫌じゃなかったら、このままで」
「はい、このままで」
押し切られるのはもう毎度のことだ。別に減るもんじゃないし、と無理やり自分を納得させる。
きらびやかなシャンデリアの脇を通り抜けて、階段を上がる。すると、道路を隔てた目の前、木々の向こうにホテルが現れた。
ダークカラーの外装にそびえ立つタワー、制服をきっちり身につけたドアマン。ロビーからは燦々と光が漏れている。
(わ……敷居が高い感じ)
一人だったら絶対に入れないような高級な印象のホテルに密かに怖気づくが、彼は迷いなくロビーに足を踏み入れる。
入ってすぐ、クリスマス飾りが目に入る。ツリーとその周りに雪山を模した鉄道模型で、線路を走ってきた二台の機関車が優樹たちの目の前ですれ違った。
彼が足を止めて、優樹に尋ねる。
「ラウンジとバーだったらどっちがいい?」
右にラウンジ、そして左奥にバーがあるらしい。優樹は彼の示す先を見比べながら、答える。
「食事が充実してそうなのは、ラウンジかな」
ラウンジの方を覗き込むと、扇形の背もたれのついたソファにクッションが並べられているのが見えた。
「居心地よさそうだね」
優樹のこのひと言が決め手となり、ラウンジに落ち着くことが決まった。
二人に気づいた店員が素早く出迎えてくれて、中央窓側のソファ席に案内される。
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