くつろぎのラウンジで隣同士

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 窓までの距離は数メートルはあるけれど、優樹は目が合ったことを確信した。気づいたなら目をそらせばいいのに、お互い無言で見つめ合う。  彼のやや垂れたまなじりに奥二重のまぶたの下で、瞳が淡く光を放っている。 (笑う? 指摘する? ダメだ、もう時間が経ちすぎてる……今さら不自然にしかならない)  優樹が次の手を打てずに固まっていると、彼の方から先に目をそらされる。というより、体ごとそっぽを向かれてしまった。 (えっ、さすがに不快だった……?)  馬鹿みたいにじっと見つめてしまったことを後悔していると、背後で空気が動くのがわかった。 「お待たせいたしました。ビーフメンチカツサンドです」  朗らかな声とともに、テーブルの上に皿が並べられる。彼がどうも、と会釈のようなうなずきのような動きを見せると、店員はごゆっくりどうぞ、と言いおいて去っていった。 「いただきます」 「あ、どうぞ」  口から出た後に、言わなくていいことだったかもと考える。ここはごちそうする気だが、自分が作ったわけでもないのにどうぞというのは違和感がある。  こうやってごちゃごちゃと言い訳がましく脳内で自問自答しているだけで、思っていることの半分も口に出せないのが情けない。  優樹は自分をごまかすように、カップに残った紅茶を一口啜(すす)った。横からはサク、と軽快な音が聴こえる。先ほどの失敗を活かして目線をそらしているから想像になるが、カツを噛み切った時のものだろう。 (夜にカツサンド。男子っぽいチョイスだなあ)  女子としてはこの時間に食べるには、罪悪感が強いメニューだ。彼はまったく気にならないようで、黙々と食べ続けている。白い皿の上に載っていたサンドが付け合わせのポテトとともにひとつまたひとつと減っていく。  食べっぷりのいい人は好きだ。男子には時間も量も何も気にせず、肉や揚げ物を好きなだけ食べていてほしいと思う。
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