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席を離れて薄暗い店内を歩く。小洒落た店はお手洗いも小洒落ていて、芳香剤と言いガラスのランプやタイル張りの洗面ボウルと言い、トイレとは思えないくらいムーディだった。
パウダールームの椅子に腰掛けて、握りしめていたスマホを操作する。
__まあ、私がいてもいなくても変わんないかな、って。
言葉を濁して伝えると、時間を置いたにもかかわらず瞬時に返信が返ってくる。
『俺なら退屈させないのに』
「ん?」
続いてもう一度、スマホが震える。
『ゆきさんのこと、ほったらかしになんかしない』
「は!?」
その内容に、思わず口から声がこぼれてしまう。
(ちょっとこの人、またそんな勘違いさせるようなこと言う)
__今、結構しんどいから、そんなん言われたら惚れるわ。
「なーんてね、ハハッ」
直後にちゃかしたスタンプをタップしたけれど、送信前に返事が届いた。
__いいよ
「はああ!?」
優樹は思わずスツールから立ち上がった。その拍子に膝を化粧直し用の台にしたたかぶつけてしまう。
「いっ……たぁ……」
かがみこんで、ぶつけた場所に手を当てる。六〇デニールタイツの下では痣ができているかもしれない。
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