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つい30分前にメッセージが途切れてから音信不通だったのに、どうしたんだろう。
優樹の予定は知っているはずだから、連絡があるにしてもメッセージなら理解できる。わざわざ電話をかけてきたことが不思議だったが、緊急の用事かもしれないと思いあたり、戸口に身体を向けて通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『よかった、繋がった』
小声で応答すると、低い声が耳をくすぐった。
「ユウキくん? どうしたの?」
『お店、恵比寿のどこ』
「え、お店って?」
移動中なのか、電話の向こうで雑踏の音が聴こえる。
「俺、恵比寿駅にいるから」
「ええっ……!」
もしやと思った予想が的中し、驚きで一瞬言葉をなくす。
(なんで? 残業は?)
疑問符を頭に浮かべながらも、優樹は最適と思われる答えとして店名と予約名を手短に告げた。
「ありがと」
それを最後に通話は途切れた。スマホを手に持ったまま呆然としていると、背中を叩かれる。
「ゆーきちゃん、どうしたの?」
「あ、ううん。飛び入り参加の連絡」
「えー今から?」
「どういう人!?」
「知り合いの男の子で__」
簡単に彼と出会った経緯と職業について伝える。と言っても、優樹が知っているのは職場がお台場のあたりであることと、理系の会社でエンジニアをしているということくらいだった。
(改めて振り返ると、私ユウキくんのことほとんど知らないな)
何度かフットサルサークルで一緒になって、その後は二人で数ヶ月に一度会っている。軽くランチとかお茶するくらいの気軽な仲になってから1年以上。
それなのにいざ説明しようとすると、難しい。そんなにしゃべる方ではないけれど落ち着きがあって、気遣いができる人。
優樹にとってのユウキくんとは、概ねそんな相手だった。
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