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そうこうしているうちに、個室の扉が開いて本人が登場した。
「ユウキくん?」
「……うん」
「いらっしゃい!」
「とりあえずそこ座れば。お誕生席で悪いけど」
「どうも」
優樹の頭越しに会話が交わされた後、角を挟んだ左側に彼が滑り込んでくる。
「マスク……」
顔の半分をマスクで覆っていることに気づいて指摘すると、眠たげな目が二度まばたいた。
「風邪とかじゃないよ。これは乾燥対策」
「そっか、喉弱いんだっけ」
「ん」
話しながら、コートをかけるためのハンガーを手渡すと、次いで反対側からテーブルをまたいでメニューを差し出される。
「ねえ、何飲む? これ、メニューね」
彼の動きが一瞬止まったのに気づき、優樹はハンガーを一旦引っ込めた。
「今からだと、単品で頼んだほうがいいだろうね」
「じゃあついでにラストオーダーの注文もしようか」
周囲の働きかけで、話が進んでいく。オーダー内容が決まると、『ユウキくん』が店員を呼び止めて、全員分の注文を通してくれた。その後ようやく脱いだコートを室内のコート掛けに収める。
ほどなくして人数分のグラスが届き、最後の乾杯が行われた。
「ようこそユウキくん! 飛び入り参加に乾杯!」
飲み会の終盤は間延びしがちなものだが、彼の登場がいいカンフル剤になったようで、場は盛り上がっている。彼を中心に会話が盛り上がっているようなので、優樹はやることがなくなってひと息つくことができた。
手元のアイスティーをすすりながら、ちらりと横目で彼をうかがう。すると、ちょうど目が合ってしまった。
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