くつろぎのラウンジで隣同士

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くつろぎのラウンジで隣同士

 窓を向いたソファに横並びに腰掛けて、メニューを広げた。それから彼はビーフカツサンドを、優樹は期間限定に惹かれてアップルシナモンティーを注文することにした。  つないでいた手は、座る時に外されている。自由になった手から、少しずつぬくもりが消えていく。そのことに対して、優樹の中に何か感情が芽生えそうになった時、店員が注文の品を持ってやってきた。  低めのテーブルの上にガラスのポットと縁に金色の飾帯模様の入ったティーカップが並べられた。蓋のついていないポットにはスライスした生のリンゴが浮いていて、白い湯気がふわりと浮いてくる。  スパイスの香りが鼻先までのぼってきて、優樹は深く息を吸い込んだ。 「先に飲んでて」 「あ、ありがと」  勧められるままにポットを傾けてカップに注ぐ。店に入ってから必要最低限の会話しか交わしていないけれど、それが苦痛ではない。 (二人で会う時はいつもこんな感じなんだよね)  波長が合うというのか、沈黙が落ちても焦る必要のない気楽さが好ましい。カップを取り上げて、中身を冷ますためにふうっと細く息を吐き出すと、スパイスの香りが立ち上がった。  正面の窓の向こうは、おそらく日本庭園だ。冬だというのに一面の緑が青々と生い茂っている。外を眺めているうちに、窓に自分たちの姿が映り込んでいるのに気づく。  彼はすでにコートとジャケットを脱いで、グレーのセーター姿になっている。ソファ席だからリラックスしてもいいのに、背筋を伸ばして姿勢正しく腰掛けていた。 (わ、今目が合った!?)  窓ガラスの上で視線がぶつかったような気がして、優樹は慌ててまばたきをする。
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