洗濯ばさみ

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 そうこう言っているうちに「パートナー」が帰宅した。十九時ちょうど。幸いにも、夕食はちゃんと完成していた。 「ただいま」 「おかえりなさい。お疲れ様。すぐ夕食にしますか」 「いや、今日は先に風呂に入る。明日早いんだ。だから、夕食を摂ったらすぐに寝るから。その後で、風呂の掃除を頼むよ。」 「わかりました」 「パートナー」は風呂場へ向かい、服を脱いでシャワーを浴び始めた。いつもからすの行水なので、私はすぐに夕食を温め直し、器に盛った。机に並べ終えたところで、「パートナー」が入浴を終えてダイニングに入って来た。 「いい匂いだ。今日はモリブデンだね」 「はい」 「いただきます」 「パートナー」はそう言うと、私には何なのかわからない、最初に指示された通りに高温に熱した棒状の金属を、美味しそうに食べ始めた。  私の「パートナー」はロボットだ。正確には、ロボットというのか、アンドロイドというのか、または他の名称があるのか私は知らないけれど、少なくとも人間ではない。この「パートナー」はこの時代にはどの家にもいて、どの家の「パートナー」も私の「パートナー」と同じように、外で働いて生活費を家に入れている。と言うのも、この時代には全ての仕事という仕事が「パートナー」にしかこなせないようにできているらしく、人間は家で家事をこなして「パートナー」に養ってもらうより他はないのだった。 「今日は、内緒で外出などしていないだろうね」 「はい、していません」 「それはよかった。最近はこの辺りでも放射能が濃いことが多いんだ。今後は極力外に出ない方がいいだろう」 「……はい、わかりました」 「パートナー」は食後のガソリンを飲みながら、まるで私のことを心配するように言った。しかし私は知っている。それは優しさなどではなくて、私が脱走しないように釘を刺しているだけだということを。「パートナー」にはAIという技術が使われていて、人間である私よりも思考が高性能らしい。脱走したところで、すぐにでも連れ戻されてしまうことを私は知っているため、今更逃げ出そうなどと考えることはなくなっていた。それは、どこの家でも同じらしかった。
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