ヤクザかと思えば

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 ひと目見て、普通の職業の男ではない、とわかった。  なにをもって「普通」と定義するかは難しいところであるが、とにかく、まとっている雰囲気が違うのである。笑顔をたたえたその奥で真逆のことを考えているような油断のならない目つきをしており、気安く信用すれば痛い目に遭いそうな予感がした。 (こいつはヤクザだな)  先野光介(さきのこうすけ)はそう見立てた。ヤクザが身分を隠して探偵になにかを依頼をするのは決して珍しいことではない。暴力団対策法によって身動きがとりにくくなっているヤクザにとって、今はどんな手を使ってでも生き残っていかなくてはならない時代だ。  ただ、興信所としては、ヤクザの片棒を担いだとなれば、明るみに出たときになにかと今後の業務に支障がでるため、易々と依頼を受けるわけにはいかない。違法行為だとつるし上げられたらたまったものではないのだ。それこそ社の存続に関わる。
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