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「あのマネージャさんも、テレビ局なんかに出入りして、いろんな立場の人と仕事の打ち合わせをしたり調整したりするわけですから、さぞかし苦労が多いでしょうね。先野さんの服装にまったく動じなかった人って、初めて見ましたよ」
「そうかい?」
先野は事務所ではいつも白のスーツの上下と決めていた。たまに依頼者の元に出向くときもその格好だ。初対面の依頼者の目がこころなしか泳ぐのを、三条はいつも目にしていた。なんでその服装なのかと、事務所のだれも質問したりしないので謎のままなのだが、だれも触れないでいたし、先野本人も語らなかった。
「これはおれの仕事への姿勢なのさ」
先野は上着の襟をつまんでそう言ったが、もちろんなにを言っているのか三条には理解できない。理解できないが、あえてそれ以上は話題にしなかった。ここは触れないほうがよい、という判断だった。
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