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「時を越えて、とはどういう意味なの。」
レンチンパスタで、軽く夕飯を済ませてから、バスタブに湯を溜め、先に髪と体を洗う。のんびり一時間程湯に浸かった。バスボムの香りに癒されながら、考えを巡らせた。初めて訪れた勇介に関する言葉。意味は全くわからない。
「お隣さんは何者なんだろう?」
詳しくは知らない。旦那さんは、朝会うと途中の駅までご一緒するだけ。
奥さんは、私より少し若い?お子さん二人とも受験生と言っていたけど、確か小学生の双子ちゃんだったはず。中学受験をすると云うことか。休日に家族のお出かけの場面を見る程度で、それ以外は知らない。
お隣さんになって五年。今まで何も言われなかった。
いつから、私の事を知っていたのだろう。
何故、今?
時が来たようだと云っていた。
勇介の居場所は知らないと云っていたけれど、本当は知っているんじゃないだろうか。
頭の中をくるくると、思考が回る。少しのぼせた。バスローブを身に纏い、髪を乾かす。
パックで肌を潤わせる。明日、エステに行くけど、肌の調子は上げておきたい。
動揺と神経の昂りを抑える為に、アロマキャンドルを用意し、カフェインの少ない紅茶を入れた。本当は、ホットミルクを飲みたかったが、買いに行くのを忘れてしまった。
夢を見た。何だか回りが騒がしい。大きな音や小さな音、人の話し声、子供の泣き声。夢なのに、回りは暗く音だけがする。
「あれ?いつの間に寝てた。」
ベッドから這い出ると、アロマキャンドルが消えていた。昨日消して寝たっけ…?思い出せない。いつもの時間に目が覚めてしまったようだ。土曜日で、美容室の予約は午後からだ。もう一眠りするか迷う。
「朝のウォーキングしよう。」
昨夜は、いつもより早く寝たから、目覚めも良い。ジョギングウェアに着替えて帽子をかぶる。携帯とハンドタオルをウエストポーチに入れて、ジョギングシューズを履き家を出る。私の家の隣を通った時、少し違和感を感じた。お隣さん、何かがおかしい…?
丁度来たエレベーターに乗り、一階へ降りた。エントランスのポストを見ると、
「あれ、お隣さんの名字が違う?」
確か、近藤さんだったはず。今見たら、近衛さんになってる!!どういう事?まさか、昨日の夢、あれ引っ越しの音だったとか??
ポストを開けると新聞の上に手紙が乗っている。
「手紙?お隣さんからだ!」
何となく誰かに見られているような気がして、手紙をウエストポーチにしまうと歩き出した。
歩いて10分程の公園のベンチに座る。
恐る恐る手紙を開けた。
「俺の役目は終わった。大きな力が動き出す。選ぶのは君自信だ。近藤」
何これ?これじゃ、訳がわからないじゃない。
その時、手紙に朝の光が降り注ぎ、みるみる消えてしまった。
「手紙が消えたー?!」
なんなのなんなのなんなのなんなのなんなの
私は、噴き出した冷や汗を、ハンドタオルで拭きながら、家に帰る事にした。ウォーキングどころではない。近くで車が急発進する音がして、ビクリとする。足早に、来た道を戻る。足がガクガクする。何かわからない恐怖に心臓もドキドキが止まらない。
やっとマンションの前に着く。直ぐ横に、白のワンボックスカーがエンジンをかけたまま止まっている。何だろう。出るとき、車は止まってなかったし、公園の近くにいた車じゃないよね?!
車から人が降りてきた。私に向かってくる?
怖すぎて動けない。道を聞かれるだけかもしれない。落ち着け私。
「すみません、ちょっとお伺いしたいのですが。こんな朝早い土曜日では、誰も通りかからなくて。」
知らない、見たことのない男の人が話しかけてきた。何となく不安を感じる。
「はい、何ですか?」
私は、できるだけ気のない声を出す。
「大森由美子さんですか?」
私はいきなりガツンと頭を殴られたような気がした。何故、私の名前を知っているの。
「…?!」
喉が張り付いたように声が出ない。
男の人は笑顔で、
「風間勇介さんがお待ちですよ。一緒に来てください。」
「?!」
私は、腕を引かれて転びそうになりながらも、車に乗ってしまった。
勇介が待っている??本当の事なのだろうか。どこへ行くのだろう。
車が動くのと同時に中にいた人に口元をおおわれ、気を失ってしまった。
「着きましたよ。起きてください。」
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