時を越えて、貴女に会いに行く

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近衛さんに促され、扉の中へ入る。 「勇介…?」 その部屋は執務室のようで、大きな机がありその椅子に座っている人物、 「由美子、久しぶりだね。」 あの頃と変わらない、優しい微笑みで私を見ている。私は彼に駆け寄った。 「本当に勇介なの?」 「そうだよ、勇介です。」 私はまだ頭が混乱していて、信じられない。 「あれから13年もたつんだね。ようやく会えたよ。」 「ねぇ、説明して?勇介どうして急にいなくなったの?影も形もなくなった。」 あの日…。大学生だった私は、ゼミ仲間10人で合宿に来ていた。その中に先輩の勇介もいた。合宿と言っても、夏休みを満喫するためのプランで、プールにテニスにサイクリング等それぞれ楽しんでいた。帰る前日の夜に、肝試しと称して、真夜中に近くの神社へ二人一組で出かけるというのがあった。私は、運良く勇介とペアになれて嬉しかったけど、真っ暗闇に怖じ気づいて、神社の下でギブアップしてしまった。勇介は、一人で神社の中へ入って行った。 いつまでたっても戻って来ない。次のペアが中に入って行ったが、勇介はいなかったと言う。勇介は、帰ってこなかった。 翌日、地元の警察に連絡をして捜索を行ったが見つからず、実家へも帰っておらず、忽然と消えてしまったのだ。事件や事故に巻き込まれたのか、成人だった為、家出扱いになり行方不明者となったのだ。今日まで。そして、失踪届けが出された。 「ここはね、国家機密でトップシークレット。地球じゃないんだ。」 地球じゃない?何を言ってるのだろう? 「あの日、由美子と思い出作りに出かけたんだ。君の元を離れなくてはいけなかったから。研究のために。」 「研究って何?」 「異空間と繋がっている場所が発見されて、それがここ。人が住んで生活できるかの研究だったんだ。それに、由美子のいる地球と時間の流れが違う。」 良くみると勇介は、あの頃と殆んど変わっていない。 「研究にある一定の結果が出てね。漸く由美子に会いに行けると思ったんだけどね…。」 「近藤さんに言ったの?時を越えてって言葉。」 「近藤にここの事を話した訳じゃなない。ただ、いつか由美子に会いに行こうと思っていたから、思わず呟いてた。」 「近藤さんには、会ったの?」 「会ってないよ。俺はここから動けないからね。人に頼んで由美子を探してもらった。結婚してたら諦めようと思った。でも、マンション買って一人暮らしを始めたと聞いてさ。秘書の近藤の弟が偶然、大学の同級生だったから。由美子の隣に住んでもらって、時が来るのを待っていた。」 「時が来るってどういう事?何故、急にそれも夜に引っ越しさせたの?」 勇介は頭を掻きながら、 「由美子が俺の法要に行くと決めたみたいだと報告がきて、今しかないと思った。」 「何も引っ越しさせなくても…。」 「五年間も縛り付けたからね。それに、ここに由美子を連れてきてもらうことは、知らない方がいい。」 私はポカンとして、 「?!まさか、私も行方不明になってるとか?」 「そうなるかな…。」 勇介が急に真面目な顔をして、 「由美子、俺とここで暮らして欲しい。結婚してくれないか?」 私は、又してもポカンとしてしまった。 「勇介、すごく嬉しい。けど、私すごく年取ったよ。見た目も体力も落ちてるこんな私でいいの?」 勇介は笑って、 「当たり前だよ。ずっと忘れられなかった。会いたかったよ。」 勇介が私を抱きしめた。 「ここの最先端のシャワーすごいよね。浴びるだけで、汚れは落ちても肌はしっとりしてるし、自動で乾燥するけど、肌も髪もしっとりのまま。洋服も自動なの?」 「便利だろ。この技術を地球が採用するのは、色んな問題があるから、後 100年はかかるかもね。ここは、外へはまだ出られない。大気が人間には適してないんだ。その分、この建物内は充実してるよ。」 「所で、私のマンションどうなるの?ローンまだ終わってないんだけど。」 私の問いに、顔を見た勇介が 「近衛が動いてくれる手筈になってる…って、怒ってる…?」 「私のお気に入りの物が沢山あったから。」 「それは、ごめん。」 「勇介は、家族と離れて心配じゃなかった?」 「この研究のメンバーに選ばれた時、覚悟したからね。」 突然、目の前が暗くなってきた。物凄く眠い。 「あ…れ…?勇介…?!」 フラりとして、勇介が抱き止めてくれた。 「まだ、時間の流れに体が慣れてないから、少しおやすみ。」 私は意識を手放した。 勇介は近衛を呼び、由美子を隣の寝室に運んだ。
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