一日目の君

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【七月十七日、水曜日。今日はそこそこ天気が悪い】  薄ねずみ色のたゆたう雲を眺めながら、俺――潮見渚は辟易としていた。通い慣れた高校の屋上で全校集会にも出ず、こうして腕を枕に空を見上げている様は、他の生徒に比べて間違いなくはみ出し者に見えるだろう。  ため息をつくと、自分の胸の辺りに鼓動を感じる。虚空に向かって腕を伸ばせば、自由に空気を掴めた。  こうして身体を機能させるために、俺たちは息を吸いご飯を食べてエネルギーを蓄える。そのエネルギーを使って、身体を動かすだけじゃなく人との関わりにも消費することが億劫だった。  人間関係のコミュニケーションも生きるために必須なのだと思うと、世の中にはやらなければいけない面倒なことばかりが存在すると思った。 ≪来週末から長期休みに入りますが健康や安全には気をつけて、くれぐれも我が校の名に恥じないよう学校の外でも秩序と誇りを持って生活するように≫  マイクから聞こえてくる校長先生のやまびこのような声を鼻で笑った。学校外での振る舞いを心配する前に、学校内に隅々まで目を向けてからそんな話をしてほしいものだ。  俺はタイルにつけていた背中を起こし、遠くの空に向かって大きなあくびをした。  こうして全校朝礼をサボって屋上にいるのももう何度目だろうか。最初の頃はもちろん先生から怒られたし、屋上の扉はきっちり施錠されてしばらく出入りができなくなったこともある。今では職員室で管理されているものとは別に清掃室にある鍵にも屋上の鍵がついていると知って、勝手にそっちを拝借しているけど。 「あーあ。死にてー……」  なんて独り言は日常茶飯事で、今に始まったことでもない。息を吸うようにわりとその言葉をつぶやいている。  いつも染めていると勘違いされる地毛の茶髪をかきながら、俺はのそのそと立ち上がった。バレないよう屋上の柵越しに全校朝礼の様子を眺めていたら表彰式なるものをしていた。  どこかの部活がなにか賞をとったのだろうか。あえて口には出したくないけど、熱中できるなにかを持っているのはうらやましいものがあった。 「写真部から、二年四組牧瀬帆波さん。このたび、全日本写真展で見事入賞を果たしました」  ギクリと肩が跳ねた。視線を移すと、とある女子生徒が艶のある黒髪を後ろになびかせて壇上の前に歩いていく。表情は見えないものの、きっと涼しげな顔をしているに違いない。
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