エイプリルフール

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「多喜、実は私ね…不倫してるの」 「………ばばばか言ってんじゃねぇぞ!」 普段、妻が言わなそうなセリフに、夫多喜は動揺した。 「子供もできちゃってぇ~」 「は…はぁ?!」 「で、相手は~」 次々に話される。もう、聞くことしかできない。 「零くんなの」 それを聞くなり、ぶっ殺すと思わずにはいられなかった。 「なぁ~んてね!うっそ~」 「…!?嘘だとぉ!?」 「当たり前じゃーん!」 陽気に答える妻梨帆であった。 「ふざけやがって…!騙したな」 「だって~零くんと考えたんだよ?許してっ」 零の名前が出るだけで腹が立った。 「ごめんねっ!びっくりした?」 「あたりめぇだこら」 「だってエイプリルフールじゃない?ね?」 「ね?…じゃねぇ~。そんな文化日本にはない!」 「わぁ~やっぱ怒った~」 やっぱって…じゃあ言うなよと心の中でつぶやいた。 その後、多喜は零と塾で会った。 「零くん…余計なことしてくれたな…」 「え…すみません。なんのことでしょうか?」 「ふざけんな。梨帆に余計なこと吹き込んだだろが!」 「え…あれ?ですか?不倫とかなんとか」 「そうだ!」 「冗談ですよ?」 「…わかってる!が、そんなこと教えなくていいだろ?」 「…すみません。教えてはいませんが…なぜかそんな話をしておりまして」 本気で怒っている多喜に驚いた。真に受けるタイプということを確信した零であった。 「まったくだ。もうこんなことするな」 それ以来、エイプリルフールについては桜川家では触れていないようだ。
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