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目が合う、といえば私はよく人と目が合う。特に男性とは。
別に私が意識して見ているわけではないのだが、気がつくと相手が見ているのだ。
その理由を追求しようと思い一度仲の良い友人に話してみたら、「そりゃ天華みたいな清楚系美人なら誰だって見てくるよ」と言われたけれど、残念ながら生まれてこのかたこの顔なので、そんな実感はない。
そんなことを考えていたら、マイクテストの六文字しか喋っていなかった校長の口から、新しい言葉が聞こえてきた。
「えー……みなさん……」
おかしい。
どうして今日の校長先生の声はこんなにもたどたどしく、不安定なのだろう。
いや、たどたどしいのはいつものことなのだけれど、それにしてもあまりにも不安定だ。
まるで、これから話すことが道理に反しているかのように、その声と表情からは恐怖と後ろめたさが滲んでいる。
もしかして、何か弱みでも握られているのかもしれない。
ふとそんなことを思い、私はそっと瞼を伏せた。そして、心の中で手を合わせて祈る。
どうか校長先生に、災いや苦悩を与える人間が現れませんように。
私は再び瞼を上げると、表情には出さずに胸の中でそっと微笑む。たとえ赤の他人でも、怯えて傷ついているものには慈悲を与えよとお母様は言っていた。
お母様からの教えをひとつ守った私は、大切な仕事を終えてふうと息を吐き出す。
これできっと校長も落ち着きと冷静さを少しは取り戻すだろう。
そう思っていた私の考えとは裏腹に、さらにマイクがハウリングしそうなほどの裏返った声が館内に響いた。
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