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「ふん、そんな子供に何が出来るとお思いか?」
そこへ、足音荒く乱入してきたのは見上げるほどの大男だった。住職よりも頭二つ分は身の丈がある。纏う僧衣は僧兵のそれ。頭に白い頭巾、黒の裳付に、白の括り袴。
「榮角、無礼ぞ。お主とは違う質の力もあると知らねばならぬ。賊を倒すと言うならともかく、相手は物の怪。然るべき法があるというもの」
住職が諭すも、榮角と呼ばれた男は不服そうに涼音を見下ろしてくる。
「にわかには信を置けぬ。俺も配下の者らの命を預かる身、下手を打って手負わせたくはない」
住職の言に耳を傾ける気は無いようで、榮角は涼音から目を逸らすことなく、はっきりと言い切った。
「あなたのお手を煩わせることはありません。化け猫には私一人で充分にございますので」
殊勝に伝えるも、榮角は太く雄々しい眉を吊り上げた。
「たわけっ!!!子供一人向かわせて、見殺しにしたなどとは外聞が悪いわ」
正に外聞にまで届くであろう怒声。
「子供、子供と詮無いことを申されても、私に時を動かす力など在ろう筈もない」
露ほどにも動じず、落ち着いた声音で涼音は肩を竦めてみせた。
『ふっ、違いないな』
鬼神の哂う声は、勿論、涼音にしか聞こえていない。
「ならばどんな力があると言うのか、この榮角に見せてみよ」
――見せてみよと、言われても……。
さて、どうしたことかと困ってしまう。
己のできることは『神楽舞』それ以上でも、以下でもなく、それに尽きるのだ。
「それは良い。私も是非に見てみたいものです」
本来ならば止めるべき住職までもが身を乗り出して乞われては、否やとは言えない空気にあった。
「そうですね……、それは一先ず考えておきましょう。とにかく今は先に化け猫のことを教えていただけませんか?」
胸に手を添え、生真面目に居直られて気付かされる。
これでは子供らが群がって『何か面白いことをして見せろ』と、か弱き子に向かって囃し立てている姿と何ら変わらない。
「「……」」
「ごっほん、それもそうですな。お頼みしたのは私どもの方であるのに、これは失礼を」
咳払いをして、住職は榮角を目で諫めた。
ドカッと荒っぽく腰を落として、榮角も今度こそは住職に従う。取り敢えずは待ってやると妥協したようだ。
『くっ、くくくっ。弁が立つこれに、そうそう勝てるかよ』
視えないことをいいことに、鬼神は腹を抱えて嗤っていた。
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