巡り合わせ

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巡り合わせ

 「いやはや、陰陽師の力がこれほどとはな……」 半壊した客人用の離れを眺めて、左大臣として名の知れた源亘(みなもとのとおる)は、額に手を当て感嘆した。    時は平安、六条京極にある大邸宅通称『川原院』は、大殿である源亘の贅を尽くしたこだわりを随所に見せながらも、落ち着きのある佇まいだった。 「(まこと)に、真に、申し訳ございませんっ!」  平謝りに伏すのは陰陽寮を束ねる陰陽頭だ。 その後ろで若き官人陰陽師、弓削真人(ゆげのまひと)と、同じく刀岐川仁(てらきかわひと)も同じように頭を垂れた。 何を隠そう、離れを半壊させたのはこの二人の責にある。 「よい、よい。人死(ひとじに)が出た訳で無し。語り草にでもなれば儂も(こころよ)い」 左大臣の寛大な人柄に陰陽頭は胸を撫で下ろした。 「院殿、このような大事になり申し訳ございません。ですが、此方のお二人が居られなければ、この京を脅かす程の事態になっていたやもしれないのです」 二人を弁明しながら頭を垂れたのは、大臣(おとど)自身の娘ほどの年端にも満たない、非正規(もぐり)の陰陽師。 通称は『鞍馬小天狗(くらまのしょうてんぐ)』とその名を馳せる(すず)こと涼音(すずね)だった。  気落ちした様子の華奢な肩に大臣は手を弾ませた。 「そう気にするでない。そなたも無事で何よりだった」 心からの労いだった。 ――しかし、こうも肩入れすることになろうとは思わなんだな……。  大臣は遠い眼をして、自身の囲う陰陽師『鞍馬小天狗』との出会いを懐かしんでいた。
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