交えた証

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「ひ、人身御供……ですか?」 本当に祈祷師はそのような道理にも無いことを告げたのか? 半ば信じがたい心持で父を仰ぎ見るのは、あの娘だった。 「ああ。それも小野の嫡子をとな」 怒りに拳を震わせ、下唇を噛む父は、まさに鬼のような形相だ。 「父上様(ちちうえさま)……」 石の如く堅く握る拳をそっと包んで、労わるように撫でる。 そして、父を狂わさぬ為の慈愛に満ちた笑み……ではなく、娘は不敵に笑んだのだ。 「小野は民の心と共に在る豪族、民あっての領主。命を懸けるは道理」 娘の言葉に当主は驚いたが、否やは唱えない。    それしか術が無かったとはいえ、さんざ弱きところを切り捨ててきたのだ。恨みを買うは必然。 暴徒と化すところまで来ている領民らを抑え込むには、こちらも相応の犠牲を立てねば納得できないだろう。 「小野の嫡子としては、私が立ちましょう」 娘は散り際を知ったかのように、泰然として笑んでいた。  『何だ?あの娘……』 穏やかに凪いだ風に御霊を擽られた心地になる。 どうして狂わぬ? どうして恨まぬ? どうして身を削れる? そして、何よりも……。 どうして笑える? 『ああ。死にたいのか』 死を覚悟し、生き地獄のような日々に飽いた。 それだけのことだと、結論付けた。 恐らく娘は死に場所を決めただけのこと。 『ふん、つまらぬな……』
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