護る者の眼

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「何故にこうも、うようよ出てくるので!?」 涼音はといえば、華麗に舞うように悪鬼怨霊を祓う……。ではなく、逃げ惑うありさまだった。 『そろそろ実践を積むぞ』と、鬼神に連れられて来たここは、不浄や怨霊の巣窟と言ってよかった。 「くくくっ、此処は霊山。正に、陰も陽もすべからく引き寄せるのよ」  手近にあった岩に腰を据え、涼音の逃げ惑う姿に腹を捩っている。腹の立つほど、手助けのする気の無い悪鬼が此処にいた。 「何か言い置くことをお忘れでは無いのですか!?」 涼音は、たまらずに声を張った。 こちらは笑い事では無いのだ。助力無くとも、助言くらいは期待したい。 「阿呆、お前こそ忘れるな。それらは思念。怨念とも言うがな。お前の心が勝れば祓える。お前はそれらをどうしたい?」 どう……? 憐れな御霊だ。醜悪に身を墜として、己の罪深さに気づきもせずに、嘆くばかりの弱き者ら。互いに呼応して増幅させている陰の気は、既に己の意思でさえ制御が効かない。互いに足を引っ張り合うかのように、そこから抜け出せない。否、それどころか同じところに引き込もうとしている。 ──どうも、こうも、祓ってしまいたい!!! 『君がかほ 千世に一たび あらふらし よごれよごれて 苔のむすまで』 (あなたの顔は千年に一度洗うようだ。汚れ汚れて苔が生すまでになっておりますよ)  何気に扇で払ったのは、そうと知っていたからでは無い。身に纏わり付いた煤けたような穢れを払い落としたかった。それだけだ。けれど、迫りくる亡者の伸ばしたその手は、怯んだように退いた。 「ああ。恐れることなどないのだ……」 見方を変えれば、見るものはまるで違って見えてくる。 呪っているようで、恨んでいるようで、この者らは……。 「どうかもうその辺で、己の美しさを取り戻されよ」 救われたい……。
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