護る者の眼

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 一年の締め括りに行う『煤祓(すすはらえ)』を思い起こして風を送った。 清浄な神気が穢れを絡め取るように剥がしていく。 『春立てば 消ゆる氷の 残りなく 君が心は 天にとけなむ』 (春が来れば消える氷のように残すことなく、あなたの心が天に還ればよい)  唄を歌い、まるでここが花の宴であるかのように雅に舞う。 「ふふ。今宵は送別の宴ですね」  木の根道を跳ねる様はまるで蝶の戯れ。太古に固められた溶岩が地表を覆うためか、この辺りの木々は根を地中に埋めることが出来ない。地を這うような剥き出しの根は青海波(せいかいば)を描いている。 『わたつみの 浪の花にぞ 見えにける 地を這う根道 蝶も飛び交う』 (海の白波が花に見えるように、波のような根道に蝶が飛び交っても不思議はない)  「現世の縛りは既にない。もう、自由に生きてよい筈。そうでしょう?」 しがらみなど、全て流して忘れてしまえばよいのだ。 『ようやく、(神が)降りたか……』 鬼神は目を細めた。 『神楽舞』だ。 それは、神の力をその身に宿した者の舞。見るものを癒し、不浄を祓う。  月の光の大きさに、今宵が望月だと知る頃、気付けばもう鬼神と涼音だけがそこに残されていた。 『なかなかの舞だった。くふふふっ。良い肴になったわ』 鬼神は酔い疲れたのかゴロリと寝転がって片肘を突いている。
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