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『なら、俺は願うだけだ。俺は『朔』だ。お前にとって幸運の日であるように……』
その晩、仁は帰って来なかった。
次の夜が来ても仁は帰らない。『大人しく、待ってろよ』その言いつけを破って朔は仁を探しに出た。
『仁……、仁、何処だ?』
――俺が探さなきゃ。俺が見つけてやらなきゃ。仁には俺しかいない。それに俺にも……。
匂い?否、違う。きっと仁が呼んでいたんだ。だから辿り着けた。
古木の桜の下に仁は居た。
『朔……、ごめん。ヘマやった』
霞がかっている仁の姿に、朔が来るのを待ってくれていたのだと知る。
『独りっきりにしてごめんな……。やっぱり、神も仏も厳しかったよ』
泣き笑いの歯抜けの顔で、仁は立ち消えた。
胸に残ったのは『怒り』
純粋な『怒り』だった。
『何で?何で?何で?』
――何で俺は大事なものを護れないっ……!?
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