連れ合い

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連れ合い

 山陰道に位置する但馬国(たじまのくに)に『刀岐(てらき)』一族の治める温泉郷有数の穀倉地帯がある。  そこは、東に春来(はるき)峠、西に蒲生(がもう)峠の難所に挟まれ、天然の要塞とする地形。出雲と都を結ぶ中継に位置することから、武闘派として名高い刀岐一族は、都へ行き来する神官の護衛を任されていた。 「護衛(になるのか)?」  駄々洩れて聞こえたそれに目を向ければ、己と同じような背格好の者がこちらを見ている。  簡素な法衣装束のその姿から、神官見習いと知れたが、巫女かと見間違える中性的な面差し。未だ声変わりさえしていない。それが、神童と噂に聞く弓削真人(ゆげのまひと)との出会いだった。    これはまだ、川仁も弓削も十五にも満たない時分の話である。 「それなりだ」 訊ねられた訳では無かったが、聞こえていたそれに応える。 表情一つ変えずに川仁は、己の力量を正しく伝えた。 夜盗などに襲われれば撃退させるほどの力は無い。 けれど旅慣れ、道案内程度には務まる。 「数も力の一つ。それ以上の働きくらいは見せるよ、これは」 川仁に顎先を向けて、不敵に笑んで見せたのは川仁の兄。 次兄は十八になる。 ただの数合わせ程よりは務まると、褒めているのか(けな)しているのか、まさにの答えを返した。 「そうか。なら、それなりに安心だね」 人好きのする笑みを覗かせたが、次兄は「行くぞ」と、川仁に先を促しその場を後にした。
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