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出立するその日、出雲の大僧正に招かれて、川仁に介されたのは浄衣に身を包んだ弓削だった。
「この度はこれの才を見込んで、陰陽寮に参内させようと連れて来たのだよ」
大僧正を前にして、弓削は殊勝にも畏まって頭を下げた。
「お主にもその気は無いか?」
川仁は目を瞬いた。
「お、(俺)私が……陰陽師にですか?」
大僧正は頷いてその目を細めた。
「儂の見立てに間違いはない。そなたには適任だ」
高名な神官にそこまで言われては否とも言えず、川仁は頷くより他なかった。それに川仁は刀岐の三男坊。遅かれ早かれ参内して、己の身を立てることは予め決められていた。むしろこれ以上に無い後ろ盾を得たと言えるだろう。
「という訳だ。よろしく頼むよ、同胞。私のことは弓削とでも呼べばいい」
弓削は川仁に懐っこく、にっこりと笑む。
「川仁だ」
反して川仁は笑みなど無く無骨にしか振る舞えない。
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