出戻り

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出戻り

『げっ』 また舞い戻って来やがった。 九十九の神々が一堂に声を揃えたのは間違いない。 「うっせぇな。お前らなんぞ、取って喰らわぬわ」 クロネコ、もとい、鬼神が涼音の持たせた菓子折りを開けてやるや、彼らは軒並みに顔色を変えた。 勿論、お神酒も存分にあった。 鬼神のことなどそっちのけで、九十九神はそれらに群がった。 『おう、おう。気が利くでないか、鬼神よ。早う、黒いのに戻れ』 あしらう様に手で払いながら、手製の豆大福に悦び勇んで舌鼓を打つのは、『琵琶弾(びわひき)』だ。 琵琶の口に白い粉を叩きながら、頭の琵琶を爪弾いた。 「忙しい奴だな。喰うか、唄うかどちらかにせよ」 クロネコは呆れながらも、己は波打つ杯を舐める。 「つうか、大福が酒の肴になるかよ」 とは言え、確と喰らいながらにして同意を求めたが、九十九神らはすかさず異議を唱えた。 『この罰当たりがっ!!!小天狗がこさえてくれた品ぞ?お主は喰うなっ!』 『と言うか、その本人は来んのか?儂は会いたいのぅ』 クロネコが涼音の元へ戻った為に、少しふくよかな顔つきになった『(てる)』が、しょぼくれて訊ねる。 『そうだっ!儂ら小天狗の舞が観たいっ!』 騒ぎ出した九十九を一蹴するべくクロネコは吼えた。 「黙れっ!豆大福で我慢しろっ!あいつは里帰りして居らぬ」 苛立つクロネコに九十九らは互いに顔を見合わせた。 哀愁に眉根を寄せ合う。 『遂に……遂に、この時が来たのか……?』 「ああ?」 『お主、愛想をつかされたか……?』 一堂に侘しい眼を向けられクロネコは遺憾を顕わにして小刻みに震えた。 「貴様ら……一同に黄泉へ送られたいかっ!」 恫喝に射殺された『琵琶弾』の弦が切れてしまう。 『『『ひょっ!!!』』』 『ち、違うのか?』 『暖簾(のれん)』は玉簾(たますだれ)の前髪をかきわけ、恐る恐る覗き込む。 『とすれば、き、貴様。まさかっ!まさか、よもや孕ませたかっ!?』 『花咲爺』が己の香炉の灰を手にして、それをクロネコに向かって投げ打つよりも素早く、クロネコは豆大福を放った。  シュッ 『あがっ……うぐっ……ごくっ』 口に放り込まれた豆大福を、目に涙を滲ませながら『花咲爺』はどうにかこうにか呑み込んだ。 『ば、馬鹿者っ!儂は味わってちょびちょび酒の肴に喰いたかったというに!』 ――こいつら……何を望んでそこまで惚けてやがる……。 口角をひくつかせながら、クロネコは呆れ返った眼差しを向けた。 「あいつは弟の婚儀を祝いに帰っただけだ……」
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