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気付けば、俺の目はいつもあいつの姿を追っていて、耳はいつでもあいつの声を拾おうとしていた。
好きかもしれないと自覚した時にはもう、戻れないほど茜に恋焦がれていた。
それでも茜に伝えることすら、まして近付く事すらできなかった。
理由はひとつ。茜がαだったからだ。
思春期のαは本能的に自分と同じ種類の人間を好まない性質がある。同人種が近付けば些細な事で争いになってしまう、いわば縄張り争いのような状態になってしまうから。
茜と争うのを避けたかった俺は、一定の距離以上に踏み込まずただのクラスメイトとして存在するだけだった。
近付きたいのに近付けない。俺にできる事といえば、自分の能力を出し切らないようにしていつでも茜のすぐ下にいること。
ランク表を見る度、自分の名前の下にある俺の名前にホッとしたように溜息を吐く茜を知っている。
典型的αの 久遠 茜 の脆い一面は、俺以外の誰にも見せたくなかった。
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